2017-11-16

英国のカトリック教会における LGBTQ+ 司牧の歴史と現状



Vincent Nichols 枢機卿と Papa Francesco. Domus Sanctae Marthae の外にて
後ろの子どもたちは,Westminster Cathedral Choir School の合唱隊

先日,我々の友人 Terence Weldon が,英国(ここでは,北部アイルランドを除く Great Britain に限る)のカトリック教会の Middlesbrough 教区で LGBTQ+ のための司牧の新たな試みが始まることを,彼の blog 記事で報じていました.この機会に,英国でのキリスト教と LGBTQ+ との関係の歴史と現状を振り返ってみましょう.日本で,わたしたちにとっても,何か参考になるかもしれません.

周知のように,英国では Anglicanism がカトリックより優勢です.2009年の資料によれば,Great Britain の総人口約六千万人のうち,半数は無宗教,Church of England の信者は約 20 %, カトリック信者は 8.6 % です.

Anglicanism では,各管区の独立性が高く,LGBTQ に関する見解も一様ではありません.Church in Wales と Scottish Episcopal Church では,同性婚も,同性愛者の叙階も,公認されています.Church of England では,同性愛者の叙階は公認されていますが,「結婚は,ひとりの男とひとりの女との結婚である」という因襲的な規定のゆえに,同性婚の祝福は非公式にのみ認められています.(ちなみに,同性婚は,England と Wales では2013年07月に法制化され,2014年03月から施行されており,Scotland では2014年02月に法制化され,同年12月から施行されています.)

ついでながら,女性の叙階に関しては,Great Britain ではいづれの管区でも既に女性司教が活躍しています.

日本の聖公会でも女性司祭は既に活動しています.また,名古屋には transgender であることを come out している後藤香織牧師さんがいます.

さて,英国のカトリック教会における LGBTQ 司牧の試みについては,歴史的に Soho Masses と呼ばれていた活動が有名です.

Soho Masses logo


そのきっかけは,悲しいことに,或る Neo-Nazi による homophobic terrorism でした.1999年4月30日金曜日,London の Soho 地区で最も古い gay pub のひとつである The Admiral Duncan に仕掛けられた爆弾が爆発し,三人が死亡,約70名が負傷しました.

そのテロ事件の直後の日曜日から,LGBT community のために London 市内でカトリックのミサが行われ始めました.熱心な参加者たちによって Soho Masses Pastoral Council[ソーホーミサ司牧委員会]が創設され,2001年から2007年までは,Soho にある Saint Anne's Anglican Church の聖堂でミサが行われていました.

Soho Masses Pastoral Council は,Anglican Church に間借りしたミサに甘んずることなく,カトリック教会の公認を求めて,Westminster 大司教区の代表者たちと交渉を続けました.その結果,2007年02月,当時 Westminster 大司教であった Cormac Murphy-O'Connor 枢機卿は,Soho Masses Pastoral Council を教区の公式な教役活動として認め,Soho Masses が同年03月から Soho の Church of our Lady of the Assumption and Saint Gregory で行われることを許可しました.

勿論,保守派の反対はありました.しかし,Murphy-O'Connor 枢機卿は,「教会の使命は,すべての人に対して教役を果たすことに存する.(...) 教会は,同性愛の人々に対するあらゆる形態の不当な差別,暴力,いやがらせ,侮辱を,断固として断罪する」と述べ,LGBTQ community に対してより包容的な司牧姿勢を打ち出しました.それは,『カトリック教会のカテキズム』の 2357 段から 2358 段へアクセントを移すことによって LGBTQ community に対して教会の門を大きく開いた Papa Francesco の司牧姿勢の先取りです.

こうして,毎月二回,Church of our Lady of the Assumption で Soho Masses は祝われるようになりました.15人の司祭が輪番で司式に当たりました.毎回百人以上の参加者がありました.定期的には参加することのできなかった人々も含めると,Soho Masses に与ったことのある LGBTQ+ の数は約三百人であった,と言われています.

2013年,Church of our Lady of the Assumption は,英国教会からカトリックへ転会した人々の personal ordinariate のために使用されることになったため,その年の 3 月から Soho Masses の会場は,Soho 地区の西隣の Mayfair 地区にあるイエズス会の Church of the Immaculate Conception へ移転しました.より正確に言うと,その教会の主日ミサのうち,第二日曜日と第四日曜日の17時半に行われるものが,公式に LGBTQ+ とその家族や友人を歓迎するミサと銘打たれることになりました.Soho Masses Pastoral Council の名称も,LGBT Catholics Westminster に変更されました.

2015年05月10日には,Westminster 大司教 Vincent Nichols 枢機卿が LGBT ミサを司式しました.英国では,司教以上の高位聖職者が LGBT のためのミサを司式する初めての機会でした.

USA の LGBT カトリックの活動 New Ways Ministry の責任者のひとり Francis DeBernardo によると,USA では既に1990年代に司教が LGBT ミサの司式をしたことが二回あったそうです.また,直近では,2017年06月11日に,Newark 大司教 Joseph Tobin 枢機卿が LGBT 歓迎ミサを司式しました.

全英レベルの LGBT カトリック支援活動としては,早くも1973年に Quest が創設されています.現在,Quest London, Quest West Midlands, Quest East Midlands, Quest Southeast, Quest Glasgow, Quest in the North の六つの支部から成る組織に発展しています.

教区の公式な活動としては,England 中部の Nottingham 教区では,昨年10月と今年10月に LGBT のためのミサが祝われました.特に昨年は,Patrick McKinney 司教がみづから司式しました.また,この記事の冒頭でも触れたように,England 北東部の Middlesbrough 教区では,2017年12月10日に York 市内の Bar 修道院の聖堂で LGBT のためのミサが行われようとしています.Papa Francesco の全包容的な司牧姿勢に共鳴する Terry Drainey 司教の理解と,LGBTQ+ の人々のための司牧に積極的な Tony Lester 神父 O.Carm. の働きのおかげです.

教区の公式な活動としてではなく,非公式な形においては,英国内のほかの複数の場所で LGBTQ+ のカトリックのための教役活動やミサが行われています.

英国でも米国でも,LGBTQ+ のためのカトリック教役活動は,1970年代に始まっています.既に四十数年の歴史を有していることになります.

全英の活動の名称 Quest は,一般名詞としては「探し求めること」です.神を探し求め,主の愛を請うこと - 忍耐強く祈り続ければ,神は必ず応えてくださる,と Jesus の「裁判官と寡婦」の譬え (Lc 18,1-8) は示唆しています.

日本では,わたしたちの LGBTCJ は 2015年に創立され,LGBT 特別ミサは 2016年07月に開始されたばかりです.今後も忍耐強く活動を続けて行きましょう.

Soho Masses の初期,超保守的なカトリック信者 Mrs Daphne McLeod は,幾人かの仲間を引き連れて,ミサ会場の教会の外でロザリオの祈りを唱えました.それは,神の愛にもとづく「敬虔さ」と言うよりは,単にファリサイ精神にもとづくいやがらせにすぎませんでした.

似たようなことは,LGBTQ+ に関連することでなくても起こり得ます.10月28日,Bruxelles の Cathédrale Saints-Michel-et-Gudule で行われた宗教改革500周年記念行事を妨害するために,数人の若者たちが聖堂内の後ろの方でロザリオの祈りを唱えました.おそらく,ピオ X 世会に同調するような保守派のしわざでしょう.

Papa Francesco の先進的かつ包容的な司牧姿勢に対する保守派からの backlash の動きは,現に幾つか起きています.しかし,世界中の司教たちの大多数は,教皇を支持しています.

Papa Francesco は,同性婚を結婚の秘跡として認めるところにまでは踏み込まないものの,LGBTQ+ の人々を断罪することなくカトリック教会へ積極的に迎え入れるよう,再三促しています.そのことを,わたしたちは,例えばLGBT とカトリック教義」や「教皇 Francesco の生と性の神学」で詳しく伝えてきました.

今後,東京大司教区においても,LGBTQ+ の人々のためのわたしたちの教役活動が菊地功大司教様によって公認していただけますように!また,日本で東京以外のところでも同様の活動が広まって行きますように!

それは神の愛の福音の Spiritus にかなうことである,とわたしたちは確信しています.



最後に,上の動画は,New York City の Church of St. Paul the Apostle に所属する LGBTQ カトリック信者たちによって制作されたものです.彼れら自身の声を聴いてください. 

ルカ小笠原晋也

Thanks to Thomas, the secretary of Quest, who answered kindly to my questions about actual situations of Catholic ministry for LGBTQ people in Great Britain. 

Luke S. Ogasawara