2017-12-26

菊地功大司教様の新著『真の喜びに出会った人々』を読んで




菊地功東京大司教様の着座を記念して,今月,『真の喜びに出会った人々』がオリエンス宗教研究所から出版されました.2016年に一年間,月刊『福音宣教』誌に11回にわたり連載された大司教様のエッセーを一冊にまとめた本です.

菊地大司教様は,神言修道会 (Societas Verbi Divini) のメンバーとして,1986年の司祭叙階後,すぐにアフリカの Ghana に派遣され,そこで八年間,宣教司牧活動に従事しました.新潟教区の司教に叙階された2004年以来,Caritas Japan(カトリック教会の人道支援組織 Caritas Internationalis の日本支部)の責任司教を勤めており,2011年からは Caritas Asia president も勤めています.

『真の喜びに出会った人々』に収録された11のエッセーの大多数は,Ghana における神言会宣教師,および Caritas Japan の派遣員や責任者としての菊地大司教様の国際的な 紛争地では命がけの 経験にもとづいて書かれています.日本(新潟教区)と Ghana 以外に取り上げられている国々は,Rwanda, Bangladesh, Kenya, El Salvador, India, Israel, Palestine です.それらの国々において,菊地大司教様は,神の愛と出会った喜びを識る人々と出会い,それらの人々と積極的にかかわって行きます.

『真の喜びに出会った人々』を読むと,文字によって養成されただけでなく,聖霊の息吹によって愛の実践へ鍛錬された菊地大司教様の宣教と司牧の姿勢を,うかがい知ることができます.

菊地大司教様が宣教の基本指針としているのは,教皇 Francesco 2013年の使徒的勧告『福音の喜び』(Evangelii gaudium) です.その第 段は,こう始まっています:

「福音の喜びは,Jesus に出会った者たちの心と人生全体を満たす.Jesus による救済を受け入れた者たちは,解放される:罪から,悲しみから,内的空虚から,孤立から,解放される.Jesus Christ とともに,喜びが生まれ,その喜びは常に新たに生まれ直す.そのような喜びにしるしづけられた福音宣教の新たな段階へキリスト教信者たちを招くために,および,今後幾年かにわたって教会が歩むべき道を示すために,わたしは,この勧告においてキリスト教信者たちに語りかけたいと思う」.

そして,マルコ福音書 16,15 Jesus の派遣の命令 : πορευθέντες εἰς τὸν κόσμον ἅπαντα κηρύξατε τὸ εὐαγγέλιον πάσῃ τῇ κτίσει ; euntes in mundum universum praedicate evangelium omni creaturae[全世界へ行き,被造界全体へ福音を宣べ伝えよ]にもとづき,教皇は,わたしたちに,「仲間うちのなかに閉じこもっていてはならない;福音を宣べ伝える使命のために外へ出なさい」と呼びかけます:

「教会が,すべての人々へ福音を宣べ伝えるために,外へ出ること すべての場所へ,すべての機会に,ためらわず,いやがらず,おそれずに,外へ出ること ,それが,今日,肝腎なことである.福音の喜びは,人々すべてのためのものである.そこから排除されてよい者は,誰もいない」(23段).

同性愛者も,transgender も,queer も,福音の喜びから排除されてよい者は,誰もいません.なぜなら,神の愛は誰も排除せず,あらゆる人を包容 (include) するからです.無神論者をも,ニヒリストをも,神の愛は包容します.

そのような全包容的な司牧の指針を共有する菊地功大司教を東京大司教区に任命してくださった教皇 Francesco に感謝します.

降誕祭のメッセージにも書いたように,今の日本社会はニヒリズムが極みに達した社会の標本です.日本政府は,Ge-Stell(科学と資本主義の支配のもとに形成されたニヒリズムの究極的な形態を,Heidegger Ge-Stell[総召集体制]と呼びます)が人類と地球を蝕み続けることに積極的に加担しています.安倍晋三氏は,全地球的な資本主義の利益追求のために日本社会がどうなろうと,お構いなしです.彼が民族主義的な日本会議イデオロギーの信奉者としてふるまうのは,そのカモフラージュのためにすぎません.日本会議イデオロギーそのものも,ニヒリズムに対する防御反応的症状のひとつです.

人間存在の尊厳が無に帰した日本社会の現状のなかで,神の愛の福音を必要としている人々は決して少なくないはずです.むしろ,今こそ福音宣教の好機です.ニヒリズムが極まった今,ようやく,キリスト教信仰に無関心であった日本人たちの耳も神の愛の福音に開かれつつあるはずです.

「外へ出る教会は,イニシアティヴを取り,かかわり合い,寄り添い,実りを生み,喜び祝う宣教者としてのキリストの弟子たちの共同体である」(Evangelii gaudium, nº 24).

わたしたちカトリック信者も,ひとりひとり,そのような宣教者として,菊地功大司教様とともに,日本社会へ神の愛の福音とその喜びを広めて行きたいと思います.

御ひとり子をわたしたちの救い主として与えてくださった神よ,あなたが Jesus Christ をとおしてわたしたちのためにしてくださる喜ばしい御わざ 無からの創造,死から永遠の命への復活,罪の赦しと罪からの解放 すべてをたたえます.あなたの忠実なしもべ,教皇 Francesco とともに,菊地功東京大司教をわたしたちに遣わしてくださったことに感謝します.新たな東京大司教とともに,わたしたちがあなたの愛の福音を日本社会へ宣べ伝えてゆくことができるよう,お導きください.Amen.

ルカ小笠原晋也


2017年12月25日,菊地大司教様は,東京カテドラルで10時の御ミサを司式なさいました.ミサ後,『真の喜びに出会った人々』にサインしていただきました.

2017-12-24

主の御降誕おめでとうございます!(ルカ小笠原晋也)



Charles Le Brun (1619-1690), Nativité (1689), Musée du Louvre


主の御降誕おめでとうございます!

わたしたちの救い主が世に与えられたことの喜びを,あらためて皆さんと分かち合いたいと思います.

今年をふりかえると,LGBTCJ のおもな活動としては,昨年に続き,5月に Tokyo Raibow Pride の祭典に参加しました.また,LGBT 特別ミサを月例行事として継続することができました.主に感謝します.そして,御病気療養中の小宇佐敬二神父様と,8月から LGBT 特別ミサの司式をお引き受けくださっている鈴木伸国神父様に,改めて感謝し,おふたりのために祈りたいと思います.

降誕祭を祝うメッセージにはふさわしくないと思われることを,わたしは,しかし,この機会に是非述べておきたいと思います.

今月,カトリック教会にとっては深刻に反省すべき問題のひとつ,聖職者による児童の性的虐待に関連するニュースが,相次いで報道されました.ひとつは,その問題を隠蔽したことの責任を取って2002年に辞任した前 Boston 大司教 Bernard Law 枢機卿の死去,もうひとつは,Australia でその問題に関する徹底的な調査を行った Royal Commission into Institutional Responses to Child SexualAbuse の最終報告書の発表です.

それらのニュースを聞いたとき,わたしは,『カトリック教会のカテキズム』の2357段と2358段において同性愛について用いられている激しい表現の本当の意味を理解し得たと思いました.

周知のように,2357段ではこう述べられています:「同性愛行為を重大な堕落として提示している聖書に基づいて,伝統は常にこう表明してきた:『同性愛行為は,内在的に乱れたものである』.同性愛行為は,自然の法則に反しており,(...) 如何なる場合も是認され得ない」.また,2358段では,さらに追い打ちをかけるように,「同性愛の傾向は,[同性愛者自身にとってはそうではなくても]客観的には乱れたものである」と述べられています.

非常に激しい,厳しい表現です.そのような表現は,『カテキズム』のなかで,原罪についても大罪 (peccata mortalia) についても用いられていません.にもかかわらず,なぜ同性愛についてはそこまで言うのか?

聖職者による児童の性的虐待の深刻さが改めて明るみに出た今,我々はこう解釈することができます:同性愛断罪の言葉の激しさは,少なからぬ数のカトリック聖職者たちに「内在的」である同性愛に対する「反動形成」の表れである.

おりしも,今月,Milwaukee 大司教区の Gregory Greiten 神父gay であることを come out しました.彼が担当する小教区の信徒たちも,Milwaukee Jerome Listecki 大司教も,彼に対する称賛と支持を表明しました.2015年に come out して司祭職から退いた Krzysztof Charamsa 氏のことも思い返されます.

彼らのように,自身が gay であることを自覚し,それをみづから認め,公にすることができるなら,精神分析家であるわたしの目から見れば,それは健全なことです.彼ら自身も,肩の荷をおろすことができた,と感じています.

問題は,自身が同性愛者であることに明確に気づいていない場合,あるいは,気づいていても,それを否認する場合です.そのような場合,自身に内在的な同性愛に対する反動 (Reaktion) として,激しい同性愛嫌悪 (homophobia) が形成されることがあります.精神分析的に言えば,まったく病理学的な事態です.

ひとつの組織としての Vatican に内在的である同性愛とそれに対する反動形成としての homophobia   それらが,『カテキズム』のなかの同性愛に対する激しい断罪の言葉を動機づけている,と解釈することができます.

Krzysztof Charamsa 氏は,カトリック聖職者の少なからぬ割合が同性愛者である,と言っています.それが事実か否かは,今のところ確かめようがありません.しかし,児童の性的虐待の問題に続いて,同性愛の問題は,改めて真剣に取り組まれるべきことだろうと思われます.

児童の性的虐待は,勿論,根絶されるべきです.それに対して,独身と貞潔を誓う限りにおいて,司祭は同性愛者であってはいけないのか?それは,改めて問うに値する問いだと思われます  独身と貞潔を誓う限りにおいて,司祭は女性であってはいけないのか?さらには,transgender ではいけないのか?queer ではいけないのか?という問いとともに.

今月は,東京大司教区と日本のカトリック教会にとって,とても喜ばしいこともありました.菊地功大司教様の着座です.ガーナで 8 年間の宣教活動を経験なさった菊地大司教様が,キリスト教を拒み続ける日本社会に対して新たな宣教の風を送ることができるよう,わたしたちも少しでもお手伝いしたいと思います.「多様性における一致」をモットーにする菊地大司教様が LGBTQ+ の人々をカトリック教会へ歓迎することに消極的であるはずがない,とわたしたちは期待しています.菊地大司教様のために祈りましょう.

今,ニヒリズムが極みに達した日本社会に最も必要とされるのは,神の愛の福音です.

今の日本政府は,Ge-Stell(科学と資本主義の支配のもとに形成されたニヒリズムの最終形態を,Heidegger はそう呼びます)が人類と地球を蝕み続けることに積極的に加担しています.安倍晋三氏は,全地球的な資本主義の利益追求のために日本社会がどうなろうと,お構いなしです.彼が民族主義的な日本会議イデオロギーの信奉者としてふるまうのは,そのカモフラージュのためにすぎません.日本会議イデオロギーそのものも,ニヒリズムに伴う症状のひとつです.

そのような日本社会の現状のなかで,神の愛の福音を必要としている人々は決して少なくないはずです.むしろ,今こそ福音宣教の好機です.わたしたち信者も,ひとりひとりが宣教者として活動して行くことができますように.

最後に,今年は,queer という語の重要性に改めて気づくことができました.韓国では,LGBTQ の祭典は Queer Culture Festival(クィア文化祭)と呼ばれています.queer は,heterosexual cis-gender men が成す heteronormativity それは,性差別を生むだけでなく,政治的な全体主義の原因でもあります に対する強烈な批判の語であり得ます.

このところ,LGBTQ community の内部対立のようなものをよく見かけます.LGBT という名称のもとに「十把一絡げ」にされることに対する反発,商業主義や heteronormativity に迎合しようとする動きに対する非難,lesbian feminist たちからの gay や transgender woman に対する批判,等々.

しかし,実は,SOGI (sexual orientation and gender identity) に関して heterosexual cis-gender men ではない者は,皆,queer です.LGBT だけではありません.女性は誰しも,queer です.

韓国におけるように,queer という語のもとに,heterosexual cis-gender men phallofascism に対する批判の動きが結集されて行くことができるよう,祈るとともに,今後も活動して行きたいと思います.

改めて,主の御降誕おめでとうございます ! Merry Christmas ! Joyeux Noël ! Buon Natale ! ¡Feliz Navidad!

LGBTCJ 共同代表,ルカ小笠原晋也

みなさま,メリークリスマス!(ペトロ宮野亨)



Botticelli (1445-1510), Mystic Nativity (1500), National Gallery


クリスマスは、心の底からの喜びを、しかも毎年体感実感できる日です。

本当に、ほんとうに、嬉しい日です。

なぜこんなに嬉しいのかを私は書き出しましたが,ここで幾つかだけを分かち合います。

・旧約は私が神を探し求めていましたが、イエスが私を探し求めてくださいます。

・イエスは私の体の中に住んでくださっています。

・あえて御聖体のかたちにまでなって、私達の中に入ってきてくださいます。イエスが私達の中に入るときはどんなお気持ちでしょうかと想う時、感謝が湧き上がります。

・主の祈りを唱えるたびに悔い改めとなるので、ゆるしをいただけます。

・ゆるされないと思い込むから悪魔の術中にはまりますが、主の祈りでゆるされている実感を体感すれば悪魔は全てをやり直しです。そして、いつでもゆるされます。

・悪魔には謙遜がわからず,十字架が見えないので、教会がそうであるように、私達 LGBTCJ の共同体も、謙遜の場であるイエスの御傷の中から生まれたと感じられます。

・私達 LGBTCJ にも謙遜の場であるミサを下さいました。

・イエスはこの世で成功するとか苦難や困難がなくなるとは約束されていませんが、一人ひとりの霊魂を救って本当は豊かだと実感させてくださいます。

・御父、御聖霊は私達には見えませんが、イエスは現われて、私達 LGBTCJ は神を見ています。

・カテキズムにも書かれているゴールデンルール「人からしてもらいたいと思うことは何でも、あなた方も人にしなさい。」を教えてくださいました。

・十字架上のイエスを見上げながら祈る時が、わたしの至福の時,と実感させてくださいます。

・霊操という祈り方をイエスは教会共同体に与えてくださいました。

・私を創造してくださった目的を私に教えて下さいます。

・イエスを愛する心もイエスは私に下さったから,私はイエスを愛していると実感できます。

・御聖体のかたわらで安心できるように、人となられたのでいつでもそばに寄り添えます。

・「ありがとう、ごめんなさい、助けてください」と毎日できるふりかえりを教えてくださいました。

・・・・・・
みなさま、メリークリスマス!

LGBTCJ 共同代表,ペトロ宮野亨

2017-12-21

共同祈願,2017年12月17日,LGBT 特別ミサにて



20171217日の LGBT 特別ミサにおける共同祈願:

わたしたちの救い主 Jesus Christ の御降誕の祝いを一週間後にひかえて,祈りましょう.父なる神よ,あなたは,わたしたちを律法の束縛から解放し,愛において新たな契約をわたしたちに授けるために,あなたの子 Jesus 様をわたしたちに遣わしてくださいました.あなたの恵みに感謝します.あなたの愛は,誰も排除せず,あらゆる者を包容してくださいます.従来,律法を武器としてふりかざすキリスト教徒たちにより差別されてきたわたしたちを,分け隔てなくあなたの家に迎え入れてください.今もなお,差別に傷つけられ,苦しむわたしたちの同胞を,あなたの愛によって癒してください.カトリック教会を,神の愛における一致と完成へ導いてください.

わたしたちの牧者のために祈りましょう.Papa Francesco は,今日,81歳のお誕生日を迎えます.カトリック教会の扉をわたしたちのために大きく開いてくださった Papa 様が,これからも力強く神の愛の福音を全世界に宣べ伝えて行くことができますように.菊地功大司教様の着座式ミサが,昨日,東京カテドラルで盛大に祝われました.多様性における一致をモットーとする新たな大司教によって,神の愛の息吹が日本のカトリック教会によりいっそうもたらされますように.小宇佐敬二神父様は,御病気の療養を続けていらっしゃいます.神の愛が小宇佐神父様を支え続けてくださいますように.そして,鈴木伸国神父様,わたしたちのためにこのように毎月特別に御ミサをたててくださり,ありがとうございます.感謝の気持ちを,クリスマスプレゼントとしてお送りします.どうかお受け取りください.慈しみ深い主よ,わたしたちを導くために世に羊飼いたちを遣わしてくださるあなたに感謝します.彼らをあらためて祝福し,ますます聖霊の恵みで彼らを満たしてください.

結婚の秘跡がわたしたちにも授けられるよう,祈りましょう.今月,Australia では同性婚が正式に法制化され,また,Austria では,同性婚を認めない現行法制が憲法裁判所により違憲と判断されました.日本でも,地方自治体が同性カップルにパートナーシップを認定する動きが広まりつつあります.ふたりの人間が真摯に愛し合うとき,それは,それぞれの性別の如何にかかわらず,神の愛の徴です.Jesus Christ によってわたしたちに新たな愛の契約をもたらしてくださった神よ,愛し合うカップルすべてに結婚の秘跡を認めるよう,カトリック教会を導いてください.いまだに LGBTQ を差別し,同性婚を認めようとしないキリスト教信者がいるとすれば,それらの者たちの目をあなたの愛の真理へ開いてください.

わたしたちの友人,世田谷区議会議員,LGBT 自治体議員連盟メンバーの上川あやさんと,彼女のお母様のために祈りましょう.上川あやさんのお母様は,今月13日に永眠なさいました.主よ,彼女に永遠のやすらぎを与え,絶えざる光のなかに彼女を迎え入れてください.喪の悲しみに泣く上川あやさんの涙を,あなたの優しい指でぬぐってください.死の不安におびえるわたしたちを,永遠の命の約束によって支えてください.

さまざまな事情で今日,わたしたちとともにこの御ミサに与ることができなかった同胞たちとその家族のために祈りましょう.主よ,あなたは,社会のなかで辺縁に追いやられた人々をひとりも見捨てません.誰ひとり排除せず,誰をも皆包容するあなたの愛の恵みを,今日来れなかった人々にも豊かに注いでください.また,今日ここに集う幸せを恵み与えられて感謝するわたしたちが,ひとりでも多くの同胞たちへ神の愛の福音を伝えて行くことができるよう,主よ,常にわたしたちとともにいてください.