少年時代にいわゆる conversion therapy を強いられた Garrard Conley の体験記をもとにして制作された映画 Boy Erased[邦題:ある少年の告白](2018) のポスター
2019年05月06日付の東京新聞の記事によると:茨城県医師会副会長の満川元一氏(産婦人科医,もと水戸赤十字病院長)は,茨城県の主催する LGBT 支援策検討会議において,「性的マイノリティー(少数派)の人にマジョリティー(多数派)に戻ってもらう治療はないのか」と発言しました.
性的指向と性同一性 (SOGI : sexual orientation and gender identity) に関して伝統的な社会規範を疑問に付する人々を「矯正」し得ると主張する「治療」は,俗に conversion therapy または reparative therapy と呼ばれています.
日本においては,いわゆる conversion therapy に関する専門的な研究はまったく行われていませんが,USA においては,医学および心理学の諸学会は明確な結論を既にくだしています:いわゆる conversion therapy は,科学的に無根拠であり,治療的に無効であるばかりか,欝や自殺を誘発し得ることにおいて,有害である.
明らかに,そのことを満川元一氏はまったく知らないわけです.
そこで,わたし(ルカ小笠原晋也)は,彼に,若干の資料を添えて,以下の書簡を送りました:
満川元一先生
Re : SOGI に関するいわゆる conversion therapy の無効性と有害性について
拝啓,
初めまして.わたしは,ラカン派精神分析家です.都内で精神分析の臨床を行っています.また,カトリック信仰を有する LGBTQ+ の人々の信仰共同体 LGBTCJ の共同代表を務めています.
今月 6 日付の東京新聞で 記事「LGBT 支援検討会合 茨城県医師会副会長発言:多数派に戻る治療ないのか」を読みました.
そこにおいて先生が「性的マイノリティの人に性的マジョリティに戻ってもらう治療」と呼んだと報ぜられているものは,英語では,俗に conversion therapy または reparative therapy と呼ばれています.
性的指向と性同一性 (SOGI : sexual orientation and gender identity) に関するいわゆる conversion therapy ないし reparative therapy の無効性と有害性に関しては,日本では科学的な研究はまだ行われていないものの,USA では既に結論がくだされています:そのような「治療」は,科学的に無根拠であり,臨床的に無効であり,それどころか,自殺や欝を誘発することにおいて有害でさえあります.
その問題に関して手短にまとめられた American Medical Association (AMA) と American Psychiatric Association (APA) の文書のコピーを同封にてお送りします.是非,参考になさってください.
敬具
以上の内容の書簡を,満川元一氏へ送りました.
以上の内容の書簡を,満川元一氏へ送りました.
冒頭に上げた画像は,映画 Boy Erased[邦題:ある少年の告白](2018) のポスターです.少年時代にいわゆる conversion therapy を強いられた Garrard Conley の体験記をもとにして制作されたものです.そのような「治療」がいかに有害であり,非人道的なものであるかを知るために,是非,御覧ください.現時点(2019年05月07日)では幾つもの映画館で上映されています.